契約や取引など社会生活において、非常に重要な役割を果たす「実印」。大切な場面で使うものですし、一度押した印影はしっかり形として残ります。
オフィシャルな場で使うものだからこそ、書体にはこだわりたいもの。書体は印鑑の「顔」といわれるほど重要な部分です。書体選びによって印鑑、ひいてはあなたの印象が左右されるといっても過言ではありません。
この記事では実印によく使われる書体や書体選びのコツなどを詳しくご紹介します。
実印ってそもそも何?
実印とは、市町村に印鑑登録をしたハンコを指します。市町村が発行する印鑑証明書と実印を捺印した書類を合わせて提出することで、両者の印影が一致しているかの確認が可能です。「確かに本人が捺印した」という証明がしやすく、印鑑の中でも最も大切で信頼性が高いといわれています。実印を契約書などの書類に押すことで「自分の意志で決定した」と証明できるというわけです。
その信頼性の高さから車の購入や不動産の売買など、多額の金銭が動く非常に重要な場面で使われる実印。一度印鑑登録をすると、一般的に変更はしないので、長い付き合いとなる印鑑といえるでしょう。
ですので、実印を作る場合、印鑑の「顔」である書体選びは特に大切なポイント。銀行印や認印を作成するとき以上に、書体にこだわることをおすすめします。何歳になってもオフィシャルな場で使えるような、書体選びをしましょう。
実印の決まりって?
実印は契約書をかわすときに使われるなど重要な印鑑であるため、偽造防止などの観点から、さまざまなルールがあります。また、市町村によってルールが異なるので、必ず実印を作成する前に確認しておきましょう。
実印専用の印鑑というものはありませんので、ルールに沿っていれば、どの印鑑でも登録できます。実印というと複雑な書体を使っているイメージがあるかもしれませんが、書体についても特に規定はありません。稀に書体によっては役所での文字照会ができずに、印鑑登録ができない場合がありますが、基本的には自由。事実、認印や銀行印で多く見られるような、シンプルな書体の実印もたくさん存在します。
ですが、実印は重要な契約などに使うもの。偽造や悪用のリスクをできるだけ少なくすることが大切です。三文判でも登録できる自治体もあるようですが、三文判は同じ印影のハンコが多数存在し、リスクが高いので避けるべきです。書体がシンプルなので、偽造もしやすいです。
また、銀行印と同じものを使うのも紛失や悪用のリスクを高めるので、おすすめしません。悪用防止の観点からいうと、印影が複雑で偽造が難しい書体のものを実印専用に用意すると良いでしょう。
実印にふさわしい書体とは
実印の書体は悪用されないように、複雑な書体が良いのですが、それ以外にも気を付ける点があります。
それは、不動産など重要な取引の場にふさわしい書体であるかということ。大事な取引の場に、ポップすぎる書体の印鑑ですと相手に違和感を抱かせてしまう可能性があります。実印を押すということは取引に責任を持つということ。実印の書体で、あなたの誠意や姿勢といったものまで伝わってしまうと考えた方が良いでしょう。
また、実印はそうそう変えるものではないので、生涯この印鑑と付き合い続けると考えて作ることをおすすめします。ですので、書体も飽きのこない自分らしい物を選ぶことが大切です。
実印でよく使われる書体
大事な場面で使用し、一生の付き合いになる実印。書体選びにもこだわりたいところです。
ですが、「そもそもどんな書体があるのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
そこで、実印でよく使われる6つの書体とその特徴をご紹介します。
篆書体(てんしょたい)
象形文字が誕生した紀元前200年頃から存在する歴史ある書体。一見難しそうなイメージを抱きがちですが、実は1000円札などのお札に捺されている非常に身近な書体です。
印鑑に使われる書体の中でも古く成立した書体なので、現代文字と少し形状が違います。
そのため、読むのが難しく偽造や悪用がしにくく、実印向きの書体といえます。
古くから使われているだけあって、風格も充分。安心して実印に使用できます。
太枠篆書体(太枠篆書体)
細篆書体(ほそてんしょたい)とも呼ばれ、篆書体をベースに枠を太く、字を細くした書体です。
他の書体より文字が細い分、ソフトで軽やかな印象を与えます。
また、枠が太いため、枠の破損の可能性が低く、その点でも長年使う実印に向いています。
印相体(いんそうたい)
別名「吉相体(きっそうたい)」とも呼ばれる書体。篆書体をベースにしたデザイン性の強い書体で、中心から外に向かう力強い流線が特徴です。
枠に文字が接しているため枠が破損しにくい点、複雑な印影のため安全性が高い点から、実印に非常に向いている書体です。
また、縁起の良い書体として知られ、開運や風水で良く用いられる書体でもあります。
極まれにデザイン性の高さゆえに、役所によっては文字照会ができず印鑑登録ができないケースがあります。
古印体(こいんたい)
大和古印と呼ばれる古い印鑑書体を基に作られた日本オリジナルの書体。
墨溜りや欠け途切れが特徴で、和の美しさを感じさせます。
認め印や銀行印に使われることが多く、馴染みのある書体で可読性も非常に高いです。
隷書体(れいしょたい)
一見現代的ですが、実は歴史が古く、紀元前の中国・秦の時代の頃に篆書体をベースに作られた書体です。
複雑な篆書体を簡略化したもので、古印体の原型でもあります。
非常に身近な書体で、お札の「日本銀行券」や「壱万円」などもこの書体で書かれています。
読みやすい書体なので、認印によく使われます。
楷書体(かいしょたい)
「楷書体」は漢字の最も基本的な書体で、ハガキや名刺などの印刷物、シャチハタの印鑑など日常的に広く使われています。
すっきりとしていて可読性が高いため、住所スタンプなどには向いていますが、実印には少し不向きです。
行書体(ぎょうしょたい)
楷書体を崩した書体である行書体は、筆で書いたような、なめらかな線の運びが特徴。
一画ずつ区切って書く楷書体とは違い、続けて書く書体です。
実印などの印鑑に使われることはそれほど多くはありませんが、浸透印に使うと独特の味が出ます。
このように、代表的な書体だけとってもそれぞれに特徴があります。
実印の書体を選ぶ際は、特徴をしっかり理解して後悔のない書体選びをしましょう。
一番人気は篆書体
実印の書体として一番人気なのは篆書体です。人気の理由として、ふっくらと丸みのある書体の美しさ、可読性が低く偽造がしにくい防犯性、歴史が古くお札やパスポートに使われるほどの伝統性などが挙げられます。
また、印相体とは違い、文字照会ができずに登録ができないといった事態が生じないのもポイントです。
2番人気は印相体で、こちらはさらに可読性が低く防犯に良い点、縁起が良いとされる点、デザイン性が高い点、そして枠と字の接点が多く欠けにくい点が好評です。
実印の書体に迷ったら、一番ポピュラーな篆書体にしておけばどの場面でも差し支えないでしょう。
男女別おすすめの書体
書体によって相手に与える印象は違うもの。男性の場合は力強さを、女性の場合は柔らかさを感じさせる書体を選ぶのが良いといわれています。
また、実印の大きさも男性は16.5mm、女性が13.5mmと男性の実印の方が一回り大きいのが一般的です。
そこで男女別のおすすめ書体と実印を作る際の注意点について、詳しくご紹介します。
男性におすすめの書体
男性におすすめの書体は、印相体です。どっしりと力強い印影と風格が特徴なので、男性らしさをアピールできます。また、篆書体よりも複雑な書体のため、防犯性も高いです。
ですが、デザイン性の高い書体のため好みが分かれやすく、印鑑を制作する職人のカラーが出やすいため、良く検討する必要があります。
また、肉太な書体で力強い印象を与える古印体も、可読性は高いですが男性向けではあります。
スタンダードな書体が好みの場合は、篆書体を選ぶと良いでしょう。こちらも防犯性が高いですし、美しく風格のある印影は、誰から見ても実印にふさわしいものです。
男性が実印を作る際の注意点
男性が実印を作る際は、フルネームで作るようにしましょう。
というのも、苗字だけの印鑑ですと似た印影の印鑑がたくさん存在するので、フルネームのものよりも防犯性が低くなります。
また、他の家族の実印と混同する可能性もあります。
さらに、男性の実印のサイズを考えるとフルネームのほうが、どっしりとした印象を与え、風格が出ます。
女性におすすめの書体
女性の場合は太枠篆書体がおすすめです。文字が細身ですっきりしており、柔らかく女性らしい印象を与えます。
さらに、枠が太いため印鑑の強度も高く、長年使う実印に向いた書体です。
印影が複雑なので防犯性も高いです。
また、篆書体もスタンダードかつ品のあり、防犯性の高い書体としておすすめです。
また、名前に漢字を使っておらず、ひらがなだけの女性が名前のみで実印を作る場合は印相体がおすすめです。
印相体以外の書体ですと、ひらがなだけで彫ると文字と外枠が接する場所がなく、読みやすい分スタンプのような印象になってしまいます。
その点、印相体は外枠との接点があるため見栄えが良いです。
女性が実印を作る場合の注意点
女性の場合、男性に比べて結婚などで苗字が変わる可能性が高いもの。
実印の名前は役所に届け出ている名前と同じでなくてはならないので、苗字が変わった場合は実印も変更が必要です。
結婚前の女性の場合、苗字が変わる可能性を考えて名前のみで実印を作るケースも多いですが、フルネームの実印に比べると、防犯性が低くなるので管理には気をつけましょう。
オリジナル書体ってどうなの?
一般的な書体で気に入ったものがないという方は、オリジナル書体という選択肢もあります。
オリジナル書体とはハンコ店で作られた独自の書体のこと。
クールなイメージのもの、優美なイメージのものなど様々なものがあります。
基本的に職人が一人ひとりの名前をデザインし、手彫りで仕上げるイメージです。
オリジナル書体の最大のメリットは防犯性の高さ。
偽造が難しく、偶然一致する可能性も極めて低いです。
オリジナリティと安全性を重視する方におすすめします。
独自デザインのため、一般的な書体よりも職人との打ち合わせが重要。
しっかり自分の求めるイメージを伝えると失敗が少ないです。
書体選びに迷ったら
このように実印の書体には多くの種類があります。
重要性が高く、長く使うものだけにしっかり選びたいもの。
ですが「なんとなく見た目が違うけど、どれがベストなのか…」と思う方も多いと思います。
そこで書体選びに迷った場合のポイントをご紹介します。
書体のプレビューを確認する
最近では、インターネットで印鑑を販売しているお店が増えており、自分の名前を入力するだけで手軽に印影のプレビューを確認することができます。
パソコンのディスプレイ上と実際に捺印した場合の印影はやや異なる場合もありますが、イメージを掴むのには充分です。
プレビューで具体的なイメージを持つことで、実際に実印を作る際に、職人に「ここをこうして欲しい」などと要望も伝えやすくなります。
後悔しない書体選びのために、ぜひ確認しておくのをおすすめします。
ハンコ店で相談する
ある程度イメージができていて、注文するハンコ店の候補があるのならぜひ相談してみるのをおすすめします。
日々たくさんの実印を見てきているプロならではの視点で、アドバイスをもらえるはずです。
一般的な書体ではないけれども、あなたにはピッタリな書体が見つかるかもしれません。
また実印の材質との相性なども、アドバイスしてくれるでしょう。
さらに、相談した時の対応で店の良しあしもある程度分かるので、いざ注文した時の失敗も少なくなります。
余裕があれば複数店舗に相談してみるのも良いでしょう。
最後は直感で決める
もしどうしても書体が決まらない場合は、一般的な書体の中から「なんとなく好き」というものを選ぶとよいでしょう。
実印は長く使うものなので、自分が持っていて気分の良いものを選ぶことをおすすめします。
まとめ
今回は印鑑の書体選びについて紹介いたしました。ポイントは以下の通りです。
- 可読性が低く偽造されにくい安全性の高い書体を選ぶ
- 実印の書体は篆書体が一番人気で、オールマイティー
- 男性には力強い印象を与える印相体や古印体がおすすめ
- 女性にはソフトな印象を与える太枠篆書体、スタンダードな篆書体がおすすめ
- オリジナル書体は高価な場合が多いが、偽造や偶然の一致によるトラブルが起こりくい
- ネットでのプレビューやハンコ店での相談を活用し、迷ったら直感で決める
実印の書体はいわば印鑑の「顔」のようなもので、どの書体を選ぶかによって相手の受ける印象が大きくかわります。
オフィシャルな場にふさわしい実印を持つことは、大人のたしなみといっても過言ではありません。
この記事が、より良い実印作りの参考になりましたら幸いです。