車や自宅の購入、相続など、人生の節目で必要となるのが実印です。
ただ、いざ実印の作成が必要となったときに、何をどうすればいいのかよく分からない…という人も多いでしょう。
そこで、初めて実印を作成しようとする人のために、押さえておきたい重要ポイントを簡潔にまとめてみました。
実印を作成する前に:そもそも実印とは?
実印とは、住民登録している役所に戸籍上の名前で登録した印鑑のことです。
見た目が立派な印鑑でも、正しく登録されなければ実印にはなりません。
反対に100均などで売っている格安の既製品も、登録さえすれば実印になります。
印鑑の通販サイトを見ると「実印3,300円〜」などとあるので紛らわしいですが、購入しただけでは実印として使えない、ということをまずは知っておきましょう。
実印の使用場面・必要になるタイミングはいつ?
実印の作成・使用が必要になる場面としては下記が挙げられます。
- マイホームの購入、売却など不動産取引
- 遺産の相続
- 公正証書の作成(離婚・遺言・任意後見契約・遺産分割協議ほか)
- 金銭その他の貸借証書・契約書の作成
- 自動車や電話の取引(購入・売却など)
- 保険金・保証金の受け取り
実印は法的な権利や義務の発生を伴う場面で使うことが多いため、印鑑登録済の実印であることを証明する印鑑登録証明書とセットで使用することがほとんどです。
登録できる印鑑の規定・ルール
実印として登録できる印鑑には規定があります。
下記のような印鑑は実印として登録が認められませんのでご注意ください。
実印としての登録が認められない印鑑
- すでに他の人によって印鑑登録されているもの(実印は1人に1つが原則)
- 印影の一辺の長さが8mm〜25mmの範囲内に収まっていないもの
- 印影の一部にキズ、欠け、摩耗があるもの
- 印影が不鮮明なもの
- 住民票に登録されている名前と表記が異なるもの
- 名前以外の文字が入ってしまっているもの(肩書・店名など)
- 印影が変形する恐れがある材質のもの
なお、印鑑登録ができるのは15歳以上。
外国人でも役所で外国人登録を行っていれば印鑑登録が可能です。
印鑑を作成する際に決めるべき6つのこと
実印とは何か、そして作成に当たっての決まり事を理解した上で、具体的に何をどう決めていけばいいのかを詳しくポイント解説します。
名前の表記を決める
実印として登録する名前は、一部の例外を除いて、住民登録してある名前なら「苗字だけ」「名前だけ」「フルネーム」のどれでもOKです。
ただセキュリティの面からは、フルネームをおすすめします。
「田中」「鈴木」などポピュラーな苗字だけの場合、一見同じに見える印影が世の中にたくさん存在している可能性が高いからです。
家族がそれぞれ実印を持つ場合も、苗字だけの実印はトラブルの素になります。
ただし、女性の場合は結婚後に姓が変わるケースが多いため、独身の女性が実印を作成する場合は、あえて下の名前だけで作成する人も少なくありません。
なお、女性に多いひらがなの名前も、住民票に記載されていれば実印登録は可能です。
サイズを決める
実印として印鑑登録するには、印影の一片の長さが8mm〜25mmの範囲内に収まっていることが絶対条件です。
そのことを踏まえた上で、多くの印鑑専門通販サイトでは一般的に以下のサイズがおすすめされています。
一般的なサイズ | |
---|---|
男性の実印 | 15.0mm〜18.0mm |
女性の実印 | 13.5mm〜16.5mm |
一般的に男性向けには、信用度が上がって見えるということで大きめサイズがおすすめされています。
また姓名(フルネーム)の文字数が6文字以上の方の場合も、大きめサイズがおすすめとなります。
なお、女性向けのおすすめサイズがやや小さめなのは、総じて女性の方が男性より手が小さいことと、昔からの慣習という面が大きいだけなので、女性が18.0mmやそれ以上のサイズの実印を作成しても全く問題はありません。
大きい実印は箔が付くので、会社の代表・経営者の方から人気があります。
形(丸or四角)を決める
一般的には丸型の実印が多数派ですが、規定のサイズ内であれば、丸でも四角でも印鑑登録は可能です。
あえて四角の実印を選ぶ場合は、次の三つを理由に挙げる人が多いようです。
①印影の重複を避けたいから
ポピュラーな苗字+名前の人は、印影が重複する可能性が高くなります。
その点個人用で四角い実印を使う人は少数派なので、あらかじめ四角で実印を作成すれば重複を避けやすくなるからです。
②名前の字数が多いから
四角い方が印面の面積が大きく、多くの文字が彫りやすくなるため、姓名合わせて6文字を超える人なら四角い実印も有力な選択肢となります。
③個性を演出したいから
世間的には丸型の実印が多いため、あえて他の人と違い出すことで個性の演出につながる、と考える人もいるようです。
ただ、世間的には「四角い印鑑は社印」というイメージを持つ人が少なくありません。
そのため法人の代表者・経営者が個人用の実印を作成する際は、その辺りも慎重に考慮した上で形を決めましょう。
書体を決める
銀行印や認印は楷書体や行書体など読みやすい書体が選ばれますが、実印は偽造のリスクを避けるため、読みづらい書体で作成することが推奨されています。
具体的には、篆書体(てんしょたい)、印相体(いんそうたい)の二書体が定番です。
篆書体は、秦の始皇帝の時代に中国で作られた書体で、実印では最も利用者の多い書体です。バリエーションとして太篆書体、細篆書体があります。
印相体は、別名吉相体とも言われ、開運につながる縁起の良い書体と言われています。さらに、印相体は、枠に文字が接しているため枠が欠けにくいという利点がある書体です。
また、名前がひらがなの場合、偽造防止効果が高いことから印相体をすすめられることが多いようです。
素材を決める
実印の作成に当たっては、印面が変化しない丈夫な素材を選ぶことが必要です。
そのため以下のような素材が人気です。
実印の人気素材 | 実印に相応しい特徴 |
---|---|
チタン |
水牛系より金額的に高めですが、風格よりスタイリッシュ感を重視する人におすすめの素材。 耐久性、耐食性、耐熱性に優れ、水洗いも可能です。 |
象牙 |
最高級にランクされる素材。朱肉の吸着性が抜群で、重厚感と耐久性にも優れています。 ただし象牙の輸入は現在全面的に禁止されたため、今後は入手が困難になりそうです。 |
オランダ水牛 |
別名、白水牛や牛角(うしつの)とも呼ばれ、象牙に次ぐ耐久性と押印性が特徴。 透明度があって見た目も美しいため女性に人気の素材です。 |
黒水牛 |
漆黒の光沢が特徴。 乾燥や紫外線に弱いものの、比較的値段がお手頃な割に重厚感があるため男性に人気の素材です。 |
玄武/彩樺 |
金額がお手頃な上、エコな印鑑として人気の人工素材。印鑑の色によって呼び方を変えている印章店もあります。 木材より耐久性が高くひび割れが少ないのが特徴です。 |
黒檀(こくたん) |
高級建材や家具材として古くから珍重されている銘木。 磨くと独特の光沢が生まれ、永年の使用に耐える素材です。 |
彫り方を決める
実印の作成には、価格が安くてかつ作成に時間のかからない順から、次の3つの方法があります。
それぞれ一長一短があるので、金額、完成までに要する期間、及び印影に対する個人のこだわりに応じてお選びください。
①完全機械彫り
パソコンのフォントを使って印面を彫刻機で作成する方法です。
最も安い費用と最短の日数で仕上がりますが、格安を目玉にしている店の場合、同じ印影を使い回している可能性もあるので見極めが必要です。
もちろん、同姓同名の可能性が少ない名前の持ち主であれば、深く気にする必要はないでしょう。
②機械彫り+職人技の組み合わせ
ネット通販では最も主流のパターン。
機械で荒削りをした後で細かい部分を手仕事で仕上げる、あるいはデザイナーがオリジナルの印影デザインを作成してから機械で削るという方法です。
完全機械彫りと比べるとオリジナリティが出しやすく、手彫りよりもはるかに納期が短くなります。
③職人による完全手彫り
全ての工程を職人の手彫りで行う方法です。印影デザインから手作業で作成するため最も費用と日数を要しますが、世界でただ一つだけの、味わいのあるオリジナルの印影が作成できます。
ただしチタンについては強度が高いため手彫りはできません。
実印の作成はネット通販と実店舗どちらを選ぶべきか
作成したい実印のイメージが決まったら、どこで作成するかを決めることになります。
選択肢はネット通販と実店舗の2つがあり、それぞれ一長一短があります。
いずれにせよ、実印作成の実績が豊富な専門店で作成することをおすすめします。
なお近頃はネット通販でも、実際の印影がどうなるかを事前に確認することができます。
ネット通販で作成するメリット
値段が安い
店舗の維持費や人件費などの固定費がかからないため、総じて実店舗よりも安い価格で作成できます。
実店舗で最低数千円かかる実印が、ネット通販なら千円以下で作れる場合も多々あります。
全国どこでも納期が早い
完成までの日数が3〜4日かかることが多い実店舗に対し、ネット通販では最短で即日発送対応を行っているサイトもあるため、全国どこでも急ぎで実印が必要な場合に重宝します。
24時間いつでも注文できる
実店舗にはないネット通販サイトの大きな特徴が、24時間いつでも注文が可能なこと。
仕事が忙しくて営業時間内に実店舗へ足を運べない人や、夜勤が多い職種の人にとっては大きなメリットです。
実店舗で作成するメリット
素材の品質、感触を実際に確かめられる
画面上で見るだけではわからない重厚感や手触り、押印したときの感触を直接目で見て、体で実感しながら確認できるのが、店舗で実印を作成する最大のメリットです。
特に天然素材(象牙、水牛、琥珀など)は、模様や色合い、透明感などが一つひとつ微妙に異なるため、細かくこだわりたい人は実際に店舗で確認してから購入する方が安心でしょう。
その場で細かく質問できる
不明点や迷いがあったときに、実物を前にしながらその場でプロのアドバイスが受けられる心強さがあります。
印鑑を作るのにかかる時間と納期
ネット通販では、通常料金で「即日発送→翌日お届け」で対応するサイトが増えてきました。
最短19時間で届くスピード対応を行っているサイトもあります。
身近な場所に店舗がないユーザーでも発注した翌日に入手できるのが、ネット通販の大きなメリットです。
実店舗では平均で3〜4日かかる場合が多いですが、ビジネス街の一部店舗に足を運べば、ネット通販よりも早い「当日受け取り」が可能な場合や(特別料金が必要)、通常料金で「翌日渡し」のスピード対応を行う店舗もあります。
しかし、こうしたスピード作成の場合、パソコンフォントでそのまま彫刻している場合のあるので、実印や銀行印用の印鑑を作成する方は注文前に必ず確認しましょう。
もしどうしても当日中に印鑑が必要だという場合は、後からしっかりした印鑑で登録し直すようにすることをおすすめします。
なお、手彫りの場合は、実店舗でもネット通販でも平均で約2週間程度の期間がかかりますので、時間に余裕を持った発注が必要です。
実印を作るのに必要な費用の相場感
ネット通販の場合、サイトによって値段の相場にバラつきはありますが、業界最大手の印鑑通販サイト「ハンコヤドットコム」を例にしてご紹介します。
男性向けとして一般的な16.5mmの印鑑(丸印)の場合、チタン(プレーンブラスト)で1万8千円台、黒水牛/玄武/彩樺が6千円台、黒檀が5千円台。完全手彫りの印鑑は、同じ16.5mmの黒水牛なら3万円台です。
また女性向きの13.5mmの印鑑(丸印)の場合、チタン(プレーンブラスト)で1万2千円台、黒水牛/玄武/彩樺が4千円台、黒檀が3千円台となっています。基本的に、13.5mmのサイズではフルネームの完全手彫り印鑑は作成できません。
なお、象牙の実印は「ハンコヤドットコム」では扱っていません。象牙の実印を作成するなら日本最大級の品揃えを誇る「平安堂」がおすすめ。
複数のランクの象牙印鑑を取り扱っており、15.0mmの本象牙は通常彫りでも3万円台と非常に高く感じますが、そもそも象牙自体が高価な素材です。平安堂では熟練の職人による「匠の完全手彫り」印鑑が作成できるので、一生モノの実印になること間違いなしです。
実印の使い方に関する注意点
下記のような実印の使い方はリスクがあるため、できれば避けた方がいいでしょう。
市販の既製品を実印に使うのは避ける
市販の既製品は実印として登録できる場合もありますが、ポピュラーな苗字は大量生産により同じ印影が無数に出回っています。
知らない間に悪用されるリスクを考えると、安易な使用は避けておいた方が無難です。
銀行印との併用は避ける
実印と銀行印を併用してはいけないという決まりはありません。
ただ、併用すると偽造や盗難・紛失の際のリスクが倍増するので、別々に作成しておくことを強くおすすめします。
夫婦で1つの実印を共用するのは避ける
実印は1人1本が原則。1本の実印を複数の人が登録することは認められませんが、印鑑登録申請のタイミングによっては登録できてしまう可能性があるようです。
1つの実印を夫婦で共用してしまうと、夫が妻に内緒で実印を使って、妻の名前での署名捺印や印鑑証明の取得ができてしまいます。
金融機関からの借り入れなども可能となってしまい、この場合、妻が知らぬ間に借り主になり、夫は単なる代理人扱い、つまり、夫婦間での“なりすまし”が出来てしまうのです。
後々トラブルの火種となりかねませんので、絶対に共用は避けましょう。もし誤って登録してしまった場合は改印届けで変更することが可能です。
なお、夫婦が共有名義で不動産を購入する場合、夫婦で別々の実印が必要となるため、結局はどちらかが新しい実印を作成するよう求められます。
最後に:印鑑作成後は役所で印鑑登録を
実印となるべき印鑑が完成したら、住民登録している役所に出向いて印鑑登録を行います。
本人が行う場合は、運転免許証、パスポート、マイナンバーカード(個人番号カード)、など顔写真付きの公的な身分証を持参の上、印鑑登録申請書に必要事項を記入して窓口に提出すれば、当日のうちに登録を済ませることができます。
手数料は無料から500円まで自治体によって異なりますので、お住まいの市町村のホームページなどでご確認ください。
なお、本人以外の代理人に委任した場合、役所から本人宛に照会文書を郵送し確認を取った上で、回答書を持って再度代理人が役所へ足を運ぶ必要があるため、登録完了には最短でも2〜3日かそれ以上はかかることになります。
印鑑登録が完了すれば印鑑登録証が交付され、いつでも印鑑証明書の取得が可能になります。
実印は印鑑証明書とセットで使用することで法的効力を発揮し、契約等で使うことが可能です。
交付された印鑑証明書と実印は、盗まれたり偽造されたりすると非常に危険ですので、管理には十分に注意し、基本的に実印と印鑑証明書は別々の場所に保管するようにすると安全です。
人生の節目で使うことが多い実印は、一生ものと言っても過言ではない大切なアイテムです。
頻繁に買い換えることも少ないと思われますので、初めての作成に際しては長く使い続けることを念頭に置き、慎重に納得のいくものをお選びください。